X章 子供たちは何をつかむか (前)
自分の子供はしごけない。他人だから厳しくしごけるのです
中途半端は死につながる。それを知ることがヨット訓練の第一歩
朝の柔軟体操は約1時間。
最も訓練に適した時期は冬です。
そこで先輩の子供達がかざぐるまを操って沖合へ出て来るのを待つのです。かざぐるまが救助艇の所まで来ると、操船して来た子供を引き上げ、代わりに初めての子をかざぐるまに乗せます。苦しさをのりこえたとき、子供たちの心はガラリと変わっている
■東山洋一君の手記――「朝は6時に起こされ、朝食前に体力作りのための体操がある。まず、砂浜でのランニング。それから7時過ぎまでのたっぷり1時間が、今までダラダラと生活してきた僕達にとっては、しごきにも似た厳しい時間となる。筋力、持久力をつけるために、腕立て伏せを中心に、腹筋、背筋、屈伸、2人1組で足を持ってもらい手で階段を上下する運動など。そうとう身体に自信のある人でも、この1時間は厳しいなんていうものではないと思う。しかも、途中でくたばってしまうと、コーチに叩かれ、蹴られ、泣きわめきながらでも終りまでやらされるのである。現場の雰囲気が伝わってきます。
海上でも、一体、ヨットに乗るために来ているのか、怒鳴られるために来ているのか、判断がつかないような状態。練習艇は"かざぐるま"と呼ばれる1人乗り1枚帆のディンギーである。
しかし、生まれて初めてヨットに乗るのだから、当然、前に進むはずがない。おまけに風が強い日だったので、艇は何度も沈(チン=ヨットが横転すること)を繰り返す。今にして思えば、実際の風は順風だったのだが、その時は"強風"に感じた。もう死にもの狂いであった。
初めのうちは専任のコーチが1人ついて教えてくれるのだが、僕はどうしようもなく覚えが悪い。コーチに言われたことに"ハイ、ハイ"と頷くのだが、艇は意志通りに動かない。"舵を放すな!""セール(帆)をよく見ろ!""周りを見ろ!""シート(セールを調整する綱)を引け!""ハイク・アウト(風で傾こうとする艇を、風上側に身体を乗り出して体重で抑えること)しろ!"……その他、色々のことを言われるのだが、蹴とばされても、叩かれても、海ヘドボンと落とされてもダメだった。毎日、身体のあちこちが痛かった。殴られたり、蹴とばされたりした個所がズキン・ズキン。
無我夢中でやったシートの出し入れで、手の平はボロボロ。身体中がヒリヒリ。おまけに朝の体操でヒドイ筋肉痛。
クッソー、なんてこった、思ってたのと全く様子が違うな。イテテテ、クッソー、というのが本音だった。参った。まいった。
練習が終わったアトは、当然、ズブ濡れ。となると、楽しみは、練習後のお風呂と食事。お風呂は、冷えた身体を温めてくれる点ではとても良いのだが、ただ、あちこちの傷に熱いお湯がズキズキとしみてつらかった。……その頃の僕は、夜眠る前に必ず、あることを考えていた。それは"どうか、明日という日が来ませんように!"ということだった。夜がこのままずっと続けば、翌朝の練習もないわけだから……。しかし、朝は必ず来るし、厳しいトレーニングもまた必ずやってきた」