あとがき


 現代人は病んでいる。
 それが私の実感です。
 私のやり方に対して世間がどういう形で指弾しているか、そしてマスコミ、警察等がいかなる態勢で介入してくるか、私は承知しています。そういうことも含めて、私は"現代は病んでいる"と思います。
 戦後日本の教育は、子供を当たり前の人間に育て上げるという1点において誤ちを犯してきました。それに対して外科医的な立場に立っている私の目には、誤ちの構図があからさまに見えています。
 かといって私は、戦前のような教育体制に戻せと言っているのではありません。社会は日々、動いています。それが人間にとって"発展"なのか"後退"なのかは別として、社会は変化しています。戦後40年近く経っています。その間に、日本という国は大きく変わってきました。急激に情報化社会が形成され、家庭そのもののあり方も変わってきました。そして、その変化に対応する教育の方法ができあがっていないのです。
 かつて"家"は、あらゆることを学ぶ場でした。しかし、現代は違います。例えばテレビがあります。テレビは子供に対して不意のちん入者という形で入り込んできます。外に出れば、実体のない情報だけがそこら中に浮遊しています。今の子供は、相対的に価値が低くなってしまった家を、背後に背負わざるをえなくなっているのです。その結果、自ずと子供達の心は複雑に入り組んでいくわけです。
 そういう社会状況の中に、家庭の存在感は益々薄くなっています。その変化にどういう方針で立ち向かうのか。現代という時代を生きている全ての大人達が問われています。
 私は子供達を放棄することはできません。耳あたりのいい言葉だけを並べて子供達を甘やかすわけにはいきません。社会状況が複雑であればあるほど、厳しさを教えなければならないと思います。子供達は、今までよりもはるかに困難な道程を歩んで行かねぱならないのです。まやかしは通用しません。理論だけを掲げても無力です。
 この世に、人間として生まれてきたというただそれだけのことで、人間としての尊厳を身につけるのではない。人間としての尊厳は努力して身につけることによって初めて認められるものです。そのことを肝に命じて、子供に接するべきだと私は思います。
 子供は今の社会の犠牲者であることも、書き添えておきます。教育者、マスコミ……等々、子供に対して何事かを語りかけている側が、あまりにも無責任な、その場限りの情報を流しているのです。その結果、子供達にどういう誤解、混乱を及ぼしているか、真剣に考えている人がいったい何人いるでしょうか。社会、文明に対する責任の自覚からスタートすべきだと、私は思います。

 もう1つ、書き添えておきましょう。
 戸塚ヨットスクールは株式会社です。そのことを知ると、ごく単純な人は"営利企業"だと言いたがります。あまりにもシンプルなその反応に驚かざるをえないのですが、言葉は、それを発した人間のレベルを物語り、その言葉は天につばする如く自分に返ってくるものだとだけ言っておきましょう。
 あわせて、株式会社戸塚ヨットスクールの年間予算を記しておきます。
 予算規模は年間約1億4000万円。それがマキシマムの予算です。支出はコーチ達の給料が月額で350万円、ヨット購入、修理、その他の材料費が400〜450万円。その他、食費等が約300万円。毎月の支出が計1100万円ほどになります。年間支出が約1億3000万円あまりになります。
 現状の規模、施設で満足しているわけではありません。私は現在の約10倍まで規模を拡大したいと考えております。それだけヨットスクールに入校させたいという親がいるからです。年間1000人の子供達を"卒業"させたいというのが私の願いです。コーチの数を増やさなければなりません。子供のケースに応じて、いくつかのコースに分けることも考えています。簡単に直る子供と、長期間かかる子供がいるわけですから、多コース化は必然的な要請になっています。
 ヨットスクールを専門学校化することも、将来の方向として考えています。施設費等、膨大な資金を必要としますが、私はやり遂げてみせます。
 現在、子供達全員の親からお金をもらっているわけではありません。様々な理由でお金を払えない人達は少なくありません。正直に書けば、子供達の約半数が無料に近い形でヨットスクールに入っています。それが実情です。営利追求しようにもできません。(飛鳥新社注:本書の校了の段階で「スクールの年間収入が2億4000万円」という新聞報道がなされました。計理を担当する戸塚夫人は、それを「作為の数字」とコメントしています。詳しい数字をあげた反証は、戸塚校長が自由を獲得した後、他日を期したいと思います)
 これが、株式会社戸塚ヨットスクールの現在です。
 困難はついて回るでしょう。魔女狩りの如き非難の嵐が、既に私を襲っています。恐らく、私の逮捕はまぬがれないでしょう。その時点でのマスコミの反応は予想できます。しかし、事の本質を見誤らないで欲しい。"極悪人"戸塚を逮捕したことで一件落着したと思わないで欲しいのです。これを機会に、教育体制についての根本的な見直しを、国をあげてやって欲しいのです。私はへこたれません。私は自分のやるべきことを知っています。いかなる状況に追い込まれようと、私はヨットスクールを続けていきます。
 最後に、ヨットスクールを支えてきて下さった皆様に、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。角屋旅館の岩本御夫妻、生徒指導の木村先生、整骨医の松本先生、またヨットスクールのコーチ達、事務所の方達……ありがとうございました。
 私に様々なことを教えてくれた子供達、理解を示して下さった父兄の方々。心から謝辞を申し上げます。
 ありがとうございました。

 尚、本をまとめるにあたって飛鳥新社の高瀬幸途氏のお手をわずらわせました。感謝します。

1983年6月11日

戸塚 宏

ここをクリックして下さい